アウグストゥスの平和の祭壇(アラ・パキス)と業績録♪

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パクス・ロマーナ(ローマの平和)を実現したローマ帝国初代皇帝アウグストゥスを讃えて、元老院が奉献したアラ・パキス・アウグスタエ(平和の祭壇)をおさめたアラ・パチス美術館♪

アメリカ人建築家のリチャード・マイヤーが設計したもので、2006年に公開されました。
私はリチャード・マイヤーの現代建築が好きなので、たとえ古代遺物を収める美術館であろうと、ここには絶妙な調和が出ていると思いますが、好みは人それぞれです。
この現代的外観がローマの風景にそぐわないと、論争を呼び、それは今でも続いています。
皆さまは、どうお思いになりますか!?




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右側にアウグストゥスの霊廟が垣間見えますが、アラ・パチス美術館は霊廟の北側に位置しています。
けれども、アラ・パキス(平和の祭壇)は、もともとこの場所にあったわけではありません。
ファシズムの時代に、ムッソリーニがこの場所に展示したのでした。




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美術館の南側、つまりアウグストゥスの霊廟側の壁には、何やら文字が刻まれています。
これに気がつかない方も多いので、行かれる方はしっかりご覧くださいね。





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レス・ゲスタエ・ディーヴィ・アウグスティ♪
日本語では「神君アウグストゥスの業績録」となります。
アウグストゥスが自分で書いた自画自賛の(都合の悪いことは書いていない)業績録です(笑)。
私は、スエトニウスの「ローマ皇帝伝」(岩波文庫)を國原吉之助氏の翻訳で読みましたが、アウグストゥスのページのあとに、付録として「業績録」の全訳がついていたので内容を知っています。
これは、原文中にはないもので、訳者の國原先生がおまけを付けて下さったものなので、読者の側からすると本当にありがたいものです♪

さて、この「業績録」は、アウグストゥスの遺言により、ブロンズの柱に刻まれて、霊廟の入り口前に飾られていましたが、中世になってから、武器を作るためにブロンズの柱は溶かされてしまったので、「業績録」は失われてしまいました。

全容を知ることができたのは、16世紀半ばになってからです。
アンカラで石に刻まれたもの(アンカラの古称を使ってアンキュラ版と呼ばれています)が4つの断片として見つかったからです。
ローマ帝国時代、ローマとアウグストゥスに敬意を表して神殿の壁に刻まれたもので、ラテン語のものとギリシャ語に翻訳されたものの2種類ありました。
どちらも完全ではなく欠落部分があったのですが、幸いなことにラテン語の断片に欠けている部分はギリシャ語の断片にあり、その逆もまたしかりで、相互に補うことができたため、完全な「業績録」がよみがえったのでした。
その「業績録」が、ラテン語でこの壁に記されています。



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美術館の中に入ると、上記の写真の模型があります。
実に興味深いですね♪
この辺りは、当時、カンプス・マルティウス(カンポ・マルツィオ:マルスの野)と呼ばれる野原の広がる一帯だったのです。
写真右にアウグストゥスの霊廟が見えますが、そこから一本道でパンテオンに続いていたのでした(パンテオンは前1世紀にアグリッパが建立したものですが、その後地震で崩れてしまったため、現在見られるパンテオンは2世紀にハドリアヌス帝が再建したものです)。
パンテオンの隣には、サエプタ・ユリアが見えます。
サエプタ・ユリアについては過去記事に書いていますので、ここでは省略。

そして、アラ・パキス(平和の祭壇)があった場所が丸で囲んだ部分です。
ちょうど現在のコルソ通りに沿ったサン・ロレンツォ・イン・ルチーナ広場にあたります。
地下4メートルのところから断片的に発見されたのでした。

それから、三角で囲んだところは、オベリスクを使ったアウグストゥスの日時計があったところです。
この日時計は、アウグストゥスの誕生日である9月23日には、オベリスクの影が平和の祭壇の奥まで示すようになっていました。




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平和の祭壇~♪



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正面右上部の浮彫は比較的きれいに残っています。
ローマ建国の伝説の大もと、トロイア戦争から逃れてきたアエネイアスの物語ですね♪
左上にぺナテス(家の守護神)があるのですぐに分かりますし、アエネイアスはアウグストゥス所属のユリウス氏族の始祖ですから、ここに描かれるのは当然です。
ちなみに、美術館には一切説明が書いてありません。




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祭壇の内側~




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内側を横から見たところ。




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さて、私が今回検証したかったのは、平和の祭壇の北側の壁の浮彫です。



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ここに描かれた人たちが誰であるか(アウグストゥス・ファミリーであることは分かっています)、私なりの分析をしたかったのでした。
もちろん、色々な仮説がありますし、私もそれらを全部読んでいます。
この美術館の入り口にも、模型と共に人物の特定が記されてありましたが、う~ん、一部、絶対に違う!と思うものもありました(苦笑)。
かなり長い時間、何度も何度も角度を変えて見つめましたよ~

もちろん、勝手に決めるわけではありませんよ。
胸像が残っている人も多いので、その面影を探しながら、また、子どもたちを相互に比較しながらその年齢を想像して、それが誰の子どもであるかを想定して、しぐさからそばにいる大人との関係性を推測して行くのです。
最初は、結論は出せないな~と思っていたのですが、ぐるぐる回って、何度目かに再び戻ってきた時にひらめきが~~~
そのひらめきを確認したら、やっぱり~!
私的には、結論出ました~♪
単なる自己満足ですが、様々な研究者がそれぞれ違うことをいう中で、それをそのまま受け取ったりしないで、自分で答えを出してみたかったのです。




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平和の祭壇の裏側~



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見事な浮彫が1つ・・
この美しさは普通ではありません♪
うっとり見惚れてしまいます・・
主題もお見事♪
世界の始まりとローマ建国の歴史を重ね、神と人間を一体化しています。
詳細は省略します~
ごめんなさいね、詳しい説明を書く時間がないので・・



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さて、今回、私はMICカードを作りました。
ローマ在住者だけが作ることのできるカードで、身分証明が必要ですが、かかる費用はわずか5ユーロで1年間有効です。
このカードで、アラ・パチス美術館やカピトリーニ美術館、その他の美術館が1年間無料になるのです。
嬉しい~~
ブックショップも1割引きになります。
早速、本を2冊買ってしまいました。
今日はその本を朝からずっと読んでます。
読書の秋は続きます~


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レオナルド没後500年記念の今年2019年♪
この機会に、拙訳「レオナルド・ダ・ヴィンチの秘密 天才の挫折と輝き」(河出書房新社)をぜひお読みください♪











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私の翻訳三作目「ラファエッロの秘密」も、1月25日に発売されました♪
全国の書店で絶賛発売中♪


二作目の「カラヴァッジョの秘密」(河出書房新社も)、全国の書店で絶賛発売中で~す♪  

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by mayumi-roma | 2019-10-21 05:30 | ローマの美術・歴史散歩

上野真弓、ローマ在住の翻訳家&文筆家&ツーリズム別府大使。日々の暮らしや芸術探訪、旅の記録。最新刊は訳書『ミケランジェロの焔』、著書に『教養としてのローマ史入門』、訳書『ラファエッロの秘密』など。お仕事のご依頼はoffice.uenomayumi@gmail.comへ。


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