大人げないカラヴァッジョとバリオーネ♪

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昨日、バルベリーニ宮殿国立古典絵画館に行ったのは、見たくてたまらなくなった絵を見るためでした。
その絵は、この部屋に展示されています。
そう、カラヴァッジョの絵が3点あるお部屋です。






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カラヴァッジョの「ナルキッソス」♪
私はギリシャ神話が大好きなので、もう、それだけで、この絵は大好きです。
水面に映った自分の姿に恋してしまう美少年。
実は、それは、ふられたニンフたちの仕返しなのですけどね。
喉が渇いて水を飲もうと泉に近寄ると、そこには美しい人の顔がある・・
「なんという美しさ!」と、思いっきり自分に見とれていますね。
そうして、存在しない存在、つまり水鏡の中の自分に恋い焦がれてしまうわけですが、毎日、泉を覗いては、ご飯も喉を通らなくなって、しまいには泉の中で溺れ死んでしまいます。
さすがに哀れに思ったギリシャの神々が、ナルキッソスを水仙の花に変えたというわけです。

久しぶりにこの絵を見たら、けっこう暗い絵だったんだ~とビックリ。
私の中では明るいというイメージの絵だったのです。
きっと、それは、私自身が作り上げたナルキッソスの世界だったのかもしれません。






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「瞑想する聖フランシスコ」By カラヴァッジョは、現在ミラノに貸し出し中~






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「ホロフェルネスの首を斬るユディット」By カラヴァッジョ♪
この絵はまったく好きではないので、これが何のお話なのかなど説明もしたくない気分になります。
でも、昔、この美術館の記事を書いた時にはしっかり説明をしていたなと思い返し、泣く泣くストーリだけ思い出すことにします。

ユディットはベツリアの町に住む美しく信仰心の強い裕福な未亡人。
ある日、ホロフェルネス率いるアッシリア軍がベツリアの町を包囲して水源を断ち、町が絶体絶命の危機のある時、ユディットは町を救うために策略を立てます。
召使いとともにアッシリアの陣地に向かい、もう神に見放された町だから道案内をすると言って敵の将軍ホロフェルネスに近づくのです。
ユディトの美しさに魅せられたホロフェルネスは彼女を酒宴に招きます。
そうして、ユディトはホロフェルネスが酔いつぶれて寝込んでしまうのを待ってから、首を切り落とすのです。

なぜ、この絵が嫌いなのか、それは、もともと斬首というテーマが好きではないからです。
ヴァレッタの聖ヨハネ准司教座聖堂で見た「聖ヨハネの斬首」には、同じく斬首がテーマですが、残虐性のかけらも見出せず、それどころか聖性を感じました。
しかし、この絵は、私に嫌悪感しか抱かせません。
カラヴァッジョの絵だったら、何でも好きってわけではありませからね。
レオナルドだってそう・・

でも、一般的には、この絵は一番人気のようです。
怖いもの見たさでしょうか!?
「あ~、これこれ」と言いながら、誰もが皆、長い間、この絵の前にたたずみ、あ~でもない、こうでもない、と称賛しています。
実際、当時もこの絵は多くの画家に影響を与えたと言われています。
カラヴァッジョは、サンタンジェロ橋で行なわれる公開処刑を見に行っていましたから、おそらく、人が斬首される時は、本当にこのような感じだったのでしょう。

そういえば、以前ナポリの美術館で写したカラヴァッジョ派のアルテミジア・ジェンティレスキの絵をアップしていなかったと思いますが、この機会に比べてみましょう。





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「ホロフェルネスの首を斬るユディット」By アルテミジア・ジェンティレスキ♪

アルテミジアは、カラヴァッジョの画家仲間だったオラッツィオ・ジェンティレスキの娘で、史上初のレイプ裁判を行なった女性です。
父親の友人の画家にレイプされ、(酷い言い方ですが)当時はよくある話で、レイプされたら結婚してもらうのが普通の時代。
けれでも、その画家はすでに結婚していたのです。
その話は置いといて、アルテミジアは画家としての評価も高く、この絵もかなり評価されています。
カラヴァッジョの影響が思いっきり見てとれますね。

あ~、それにしても、なりゆきとはいえ、苦手な絵についてダラダラと長く書く羽目になってしまった私。
皮肉なものですね。
いつまでたっても、私が見たかった絵にたどりつかないではありませんか!






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私が見たかったのは、その苦手な「ホロフェルネスの首を斬るユディット」のお隣さんにある絵なのです♪







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「聖なる愛と俗なる愛」By ジョヴァンニ・バリオーネ♪

バリオーネは、カラヴァッジョと犬猿の仲だった画家です。
熾烈なライバル同士でもあり、お互いに憎みあっていましたが、面白いことに、そんなバリオーネが当時唯一カラヴァッジョ様式を取り入れていた画家だったのでした。
心の底では、彼を認めていたに違いありません。

この絵の第一バージョンはベルリンにあって、カラヴァッジョの絵「勝ち誇るアモール」と一緒に並べられていますが、それには理由があるのです。
バリオーネは大成功を収めたカラヴァッジョの「勝ち誇るアモール」の様式を真似て描いたからです。
ところが、そのバリオーネの絵も大成功を収めてしまったため、カラヴァッジョは激怒するわけです。
大人げない仕返しをするカラヴァッジョでしたが、それは裁判沙汰にまで発展します。
ひと悶着のあと、バリオーネは同じ絵の第2ヴァージョンを制作しますが、そこには、第1ヴァージョンには描かなかった悪魔の顔を描きます。
その悪魔の顔は、憎きカラヴァッジョをモデルにしたものだと言われています。

画家同士の大人げないバトルの軌跡を、どうしても見たくなった私だったのでした~
悪魔ちゃんのカラヴァッジョ、可愛いじゃないですか!
バリオーネもなかなか良い画家だと思います~

今日の記事は、10月刊行の私の翻訳本「カラヴァッジョの秘密」の内容とは、まったく関係ありません。
でも、「ナルキッソス」「勝ち誇るアモール」「聖なる愛と俗なる愛」については書かれてありますので、本を読んで理解を深めて下さいね♪

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ただ今、カラヴァッジョの翻訳本を刊行準備中ですが、私の翻訳本第一弾、「レオナルド・ダ・ヴィンチの秘密 天才の挫折と輝き」(河出書房新社)もよろしくね♪

これまでにないタイプの画期的な本です。
レオナルドの人生とその作品のすべてが物語風に分かりやすく綴られています。

レオナルドを愛する方、興味のある方、是非どうぞ♪
レオナルドの作品を鑑賞する際により深い理解を得ることができます。

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by mayumi-roma | 2017-09-24 06:40 | ローマの美術・歴史散歩

上野真弓、ローマ在住の翻訳家&文筆家&ツーリズム別府大使。日々の暮らしや芸術探訪、旅の記録。最新刊は訳書『ミケランジェロの焔』、著書に『教養としてのローマ史入門』、訳書『ラファエッロの秘密』など。お仕事のご依頼はoffice.uenomayumi@gmail.comへ。


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