1枚の絵・・

これまでに自分の目で見てきた数々の芸術作品の中で、一番好きな絵を選ぶとしたら、私は何を選ぶのだろう!?

私が、大学の卒業論文に選んだのは、ノルウエーの画家「エドヴァルド・ムンク」だった。
高校生の頃から、彼の表現する精神性みたいなものに惹かれていた・・

どちらかというと、中世、ルネッサンス、古典的な作品よりも、いわゆる「世紀末」と呼ばれる、19世紀後半からシュールレアリズムに至る絵画が好みだった。

イタリアの芸術作品には何故か心惹かれなかった・・
唯一の例外として、レオナルド・ダ・ヴィンチのことは「芸術家、科学者」として崇拝していた。
やはり高校生の頃に彼に関する文献を読んでいて、それは今もローマの自宅にある。

イギリスで、ターナーとウィリアム・ブレイク、そしてラッファエル前派と出会い、
ウィーンでクリムトと出会い、
ローマでカラヴァッジョに出会い、

私が衝撃を受けた芸術家は数知れない・・

そんな中で、ローマのボルゲーゼ美術館で見たラッファエッロの「一角獣を抱く貴婦人」は、その絵を見ただけで、妄想の世界に入ることが出来た。
その1枚の絵から、何か物語が一つ書けるような気がした・・


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            「一角獣を抱く貴婦人」(1506)ラッファエッロ作 
            ローマ、ボルゲーゼ美術館収蔵





傾倒していたレオナルド・ダ・ヴィンチ・・
ロンドンのナショナルギャラリー、パリのルーブル美術館、そして、ミラノでもフィレンツェでも、多くの作品を見てきたが、「モナリザ」より「最後の晩餐」より、その美しさと崇高さに惹きこまれたのは、フィレンツェのウフィツィ美術館の「受胎告知」だった。そして、その素晴らしい構図と表情の繊細さに言葉にし難い感動を受けたのが、ロンドンのナショナルギャラリーの「聖アンナと聖母子と幼児聖ヨハネ」だった・・


しかし、私がとっておきの1枚を選ぶとしたら・・
迷うことなく選びたい。




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            「白テンを抱く貴婦人」(1485~90)レオナルド・ダ・ヴィンチ作、
            ポーランド、チャルトリスキー美術館収蔵


この美しい絵を見た時、私は「奇跡」だと思った・・
その場からしばらく離れることが出来なかった・・
何度も何度も、角度を変えて、あるいは至近距離から遠方からと、様々な見方をした・・
目の中にこの絵を焼き付けておきたかった・・
そして、この絵を見ることが出来たことに心からの感謝と幸福を感じた・・

もうずいぶん昔、10年くらい前だろうか?
この絵がポーランドから貸し出され、ローマのクィリナーレ宮殿に展示されたことがあったのだ。
たった1枚の絵を見るためにチケットを買った。
しかも、寒い冬空の下、チケットを買うのに3時間くらい並んだ。
しかし、その価値はあった。

このように、上品で優雅な美しい絵に、これまで私は出会ったことがない・・



by mayumi-roma | 2010-01-21 06:08 | ローマの美術・歴史散歩

上野真弓、ローマ在住の翻訳家&文筆家&ツーリズム別府大使。日々の暮らしや芸術探訪、旅の記録。最新刊は訳書『ミケランジェロの焔』、著書に『教養としてのローマ史入門』、訳書『ラファエッロの秘密』など。お仕事のご依頼はoffice.uenomayumi@gmail.comへ。


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